建築について

クリエイティブな表現と環境との融合を。
紙文化の発信装置としての機能を2つの建築で構成。

再生と創造を表現する装置として

建築家  坂 茂 Shigeru Ban

 Pamは、特種東海製紙(旧:特種製紙)が展開する業務内容のプレゼンテーションおよび資料室として実質的に機能しながらも、社会に向けたさまざまな活動の情報発信基地として機能するために計画されたものである。

 もともとこの敷地には既存の研究棟と実験工場があったのだが、いずれも老朽化と耐震性能の不足などから、そのまま利用することは難しい状態であった。しかも、研究棟は鉄筋コンクリート造で、補修を施すとなると新築以上の経費が必要とされることから、結果的には解体、新築となった。しかし旧実験工場は平屋であったため、比較的少ない経費で耐震補強することが十分に可能なので、再生利用の方法を探ることにした。ここに要求されたのは、事務スペース、製品展示室などの日常業務と関係の深いものから、グラフィック・デザインを中心としたコレクションの常設展示、管理のための諸室、さらには企画展のための大空間など、性格の異なるものであった。それを、実験工場の改装、本館の新築という別々のプログラムとして依頼を受けたのである。

 大空間を必要とする企画展示等のスペース(B館)には旧実験工場を再生転用するとなると、本館(A館)は常設展示関係と事務関係という、異なった機能が同居することとなる。

 この2種類の機能をまとめて2つの棟として、それぞれの独立性を保ちながらも直接的に干渉することなく、むしろ緩やかに融合することが必要である。そこで、3層吹抜けのアトリウムに中間領域としての機能を設定し、これらの複合体として本館を構成することとした。

 建築計画の全体を通した基本的なコンセプトは、ニュートラルな空間をつくることであった。展示のためのスペースとして考えるならば、展示作品を邪魔しない建築空間であるべきだし、そこを執務スペースとする人々にとっても、建築は背景として目立たないほうがよい。建築に強烈な個性を与えるべきではない。

 さらに、いかに自然光や風を室内に採り入れるか。また、高いポテンシャルをもつ南側の庭園と、内部空間とをいかにつなげるかという点も、計画する上での大きなテーマであった。いずれのテーマも、内包された機能という現状における目的を超えて、建築が本来もっていなければならないプリミティヴな姿であり、この姿を、建築が建つ場に相応しいものとすることが最大の課題であり、それに応えられたものと思う。

坂茂建築設計  http://www.shigerubanarchitects.com/